超富裕層の課税強化に脚光=ブラジル主導、G20で議論 2024年07月30日 14時22分
【ワシントン時事】資産10億ドル(約1500億円)超の超富裕層に対する課税強化の動きが再び注目を集めている。20カ国・地域(G20)の議長国ブラジルが、超富裕層に共通の最低税率を設定する国際課税を提唱。米国の反対など実現へのハードルは高いが、高所得者により多くの負担を求める累進課税の重要性に改めて光を当てた形だ。
きっかけは、格差研究で知られる著名経済学者ガブリエル・ズックマン氏らが昨秋まとめた報告書だ。実体のないペーパーカンパニーに所得を移転するなどの租税回避が横行し、超富裕層への実効税率は保有資産の0~0.5%相当にとどまると分析。推定約2800人の超富裕層に関する情報を各国が共有した上で、保有資産の2%相当の最低税率を設定、課税逃れを防ぐよう提言した。
工場労働者出身で格差是正に意欲的なブラジルのルラ大統領がこれに目を留め、2月のG20財務相・中央銀行総裁会議にズックマン氏を招聘(しょうへい)。同氏は先週開かれた同会議にもリポートを提出し、現在の税制は「超富裕層への効果的な課税に失敗している」と改めて指摘した。
先週のG20会議の共同声明は「超富裕層の個人を対象に含む公正かつ累進的な課税に関する対話を促進する」と明記。ブラジルのアダジ財務相は、国際課税に向けた「プロセスの始まりだ」と議論進展に期待を寄せる。
もっとも、実現は簡単ではない。イエレン米財務長官は、国際課税は「必要とみていないし、望ましくない」と反対を表明。日本の財務省幹部は「個人の全資産をどう把握するのか。実務上、難しい課題がある」と話す。ただ、参加各国は「好意的に受け止めた」(欧州連合=EU)という。イエレン氏も「累進課税は強く支持している」と強調しており、格差是正に向けた議論に一石を投じたと言えそうだ。