戒厳令下の女性政治犯を映画化=史実基に苦難と連帯描く―台湾・周美玲監督インタビュー 2024年07月07日 06時26分

インタビューに応じる映画「流麻溝十五号」の周美玲監督=2日、台北市
インタビューに応じる映画「流麻溝十五号」の周美玲監督=2日、台北市

 【台北時事】戦後台湾の国民党独裁政権下で迫害され「緑島」の収容施設に送られた女性政治犯の姿を史実に基づき映画化した「流麻溝十五号」が26日、日本で公開される。2日に台北市内でインタビューに応じた周美玲監督(54)は、「史料からは彼女たちが互いに守り合う感情が見て取れ、心動かされた」と女性に焦点を当てた理由を語った。
 映画の舞台は1953年。日本敗戦後に台湾を統治した蒋介石率いる国民党政権は49年から戒厳令を敷き、共産党スパイ摘発を名目に知識人らを次々と逮捕・処刑する「白色テロ」を展開した。当時、東部・台東市から約30キロの海上に浮かぶ緑島には、政治犯を収容する再教育施設と監獄が置かれた。映画のタイトル「流麻溝十五号」はこの施設の住所。立場や世代の異なる3人の女性政治犯を軸に、不条理に満ちた収監生活で励まし合い、精神を保ち乗り越えようとする姿を描いた。
 暗黒の歴史を題材にしながら、凄惨(せいさん)な描写は少ない。「残忍な物語ほど優しく語らなければならない」。それが周監督の考え方だ。「男性が作る映画は残忍さとそれに対する怒りで正義を表現しがちだ」と話す周監督は、女性3人が抱える「他者がつらい思いをすることへの苦しみ」を浮かび上がらせる。映画では看守側の揺れる心理も描いた。「真の共感と同情から生まれた正義感の方が、怒りで生じたものよりも長く心にとどまる」と語る。
 戒厳令が解除されてから今年で37年。その後、台湾は民主化を急速に成し遂げた。映画は台湾では2022年に公開されたが、白色テロ当時のことはよく知らない若者が多い。周監督は「この映画を通じて暗黒の歴史から恐怖ではなく勇気をもらってほしい。私たちは十分な信念と勇気があり、自由を守る力がある」と力を込めた。 

海外経済ニュース