増える徴兵逃れ、前線疲弊=賄賂や偽造書類横行―「不公平」と怒りの声も・ウクライナ 2024年02月23日 14時12分

生後6カ月の娘を抱くテティアナさん=10日、キーウ(キエフ)近郊
生後6カ月の娘を抱くテティアナさん=10日、キーウ(キエフ)近郊

 【キーウ時事】ロシアとの戦争が3年目に入る中、ウクライナでは徴兵逃れが深刻化している。贈収賄や書類偽造などの不正が横行。ゼレンスキー大統領が全国の徴兵事務所トップを解任し、担当者らが訴追される事件に発展した。一方、侵攻開始当初に志願した兵士の多くは、交代のないまま2年近く前線で戦い続け、疲労の色が濃い。帰りを待つ家族からは怒りの声が上がっている。
 ◇2万人超が違法出国
 「前線に行くのが怖い」。首都キーウ(キエフ)在住の30代男性は、友人にそう本音を漏らした。列車で移動中、徴兵担当官による抜き打ちの検査に遭遇。同行を求められたが、「仕事の後に必ず出頭する」と言い張り、そのまま逃走した。その後、友人との電話で「ろくな訓練を受けず、十分な装備もないのに前線に行きたくない」と語ったという。
 報道によると、ロシアの侵攻開始以降、徴兵対象のウクライナ人男性少なくとも2万人が戒厳令に反して出国。さらに2万1000人以上が違法に国外脱出を図ったとして拘束された。このうち7000人は、自身が徴兵対象外であるとする偽造書類を所持していた。
 侵攻を受け、ウクライナでは子供が3人以上いたり、健康に問題があったりするなどの場合を除き、18〜60歳の男性の出国が禁じられた。だが、6000〜1万ドル(約90万〜150万円)で偽の医療診断書などを作成する違法業者も横行。昨年には司法当局の捜査で、軍の徴兵担当官が金品を受け取り、徴兵を見逃すなどの不正が全国規模で行われていたことが明るみに出た。
 ◇追加動員に反発
 侵攻開始直後は志願する人々の長蛇の列ができていたキーウの徴兵事務所も、今は閑散としている。同事務所関係者は「動員回避者がいるのは確かだが、大きな問題ではない。やる気のある人を集める方が重要だ」と強弁する。
 だが、兵士の犠牲を顧みず、圧倒的な火力に物を言わせるロシア軍の前に、戦況は不利になっている。軍は最大50万人の追加動員を求めているが、対象年齢の引き下げなどを盛り込んだ法案は一部国民から大きな反発を招いた。
 ◇持病悪化も交代なし
 テティアナさん(27)は生後6カ月の娘と共に、キーウ近郊の両親宅に身を寄せる。IT技術者の夫(28)は2022年2月に軍に志願。機関銃手として東部ルガンスク州の前線で戦っている。
 この2年間で帰省できたのは、娘が生まれた時の15日間だけ。上官に復員を訴えたが、交代要員の不足を理由に認められなかった。「徴兵逃れをする人が『怖い』と言う気持ちは理解できる」とテティアナさん。「でも、街中のバーは毎週末、お酒を飲んで騒ぐ男性でにぎわっている。不公平だ」と語る。
 アナスタシア・ブルバさん(37)の夫(50)は糖尿病患者だ。兵たん担当として東部の前線に弾薬などを運び続けてほぼ2年。病状が悪化しているが、復員申請は認められていない。ブルバさんは「戦い続けた夫は、志願しなかった人たちに2年間の準備期間を与えた。次はその人たちが前線に立つ番だ」と訴える。
 「お父さんと動物園に行きたい」。スマートフォンでゲームをしながら無邪気にそう話す6歳の弟を見守りつつ、長男アルテム君(15)は自分の願いを口にした。「戦争がどうなろうと、お父さんに帰ってきてほしい。帰って、ゆっくり休んで、健康になってほしい」。 

その他の写真

アナスタシア・ブルバさん(右)と2人の息子=18日、キーウ(キエフ)郊外
アナスタシア・ブルバさん(右)と2人の息子=18日、キーウ(キエフ)郊外

海外経済ニュース