ウクライナ、復興へ「もう一つの戦い」=世界最大の地雷汚染国―完全除去に750年の試算も 2024年02月21日 15時13分

爆破処理するために集められた地雷などの爆発物=2022年10月、ウクライナ東部ドネツク州リマン近郊(AFP時事)
爆破処理するために集められた地雷などの爆発物=2022年10月、ウクライナ東部ドネツク州リマン近郊(AFP時事)

 【キーウ時事】ウクライナはアフガニスタンやシリアを抜き、世界で最も多く地雷が埋められた国となった。その数は数百万個。「不発弾を含めた全体像はもはや推測できない」と専門家は語る。市民生活や経済の復興に地雷や不発弾の除去は不可欠で、ウクライナはロシアの侵攻後も長く続く「もう一つの戦い」に直面している。
 ◇1日2400発
 「サムライ」というコードネームで呼ばれた元ウクライナ軍工兵がいる。「自分の命よりも、果たすべき使命を重視する。そういう日本の伝統文化や哲学に興味があった」。ウラジスラフ・イェシチェンコさん(25)は2022年、NGOで地雷除去に携わった経験を生かそうと、工兵に志願した。
 同年8月、東部バフムト近郊で活動中、爆破処理のために集めた地雷84個が目の前で爆発した。地雷が適切に積み上げられていたため一命を取り留めたが、顔などにやけどを負い、両目を失った。現在は「ウクライナの勝利を自分で見たい」と、カメラ付きの眼鏡と頭部に埋め込んだ半導体チップで視力を復元する研究に協力する。
 ウクライナでは、国土の3分の1に当たる約17万4000平方キロメートルが地雷や不発弾で「汚染」された可能性がある。日本をはじめとする各国の支援を受け、ウクライナ当局はこれまでに約47万個の地雷などを処理した。
 ただ、それは氷山の一角にすぎない。国連開発計画(UNDP)の地雷除去専門家オレクサンドル・ロボフ氏は、ロシア軍が戦場で使用した旧ソ連製砲弾のうち、4割が起爆しないと分析。クラスター弾がばらまいた子爆弾の3割以上も不発弾として残ると語る。ロシア軍は1月時点で、1日当たり8000〜1万2000発の砲弾を使用しているとされる。半分が古い砲弾と仮定すれば、不発弾が毎日最大2400発ずつ増える計算だ。
 国連によると、ウクライナでは昨年12月時点の累計で、地雷や不発弾による爆発で市民264人が死亡、571人が負傷した。だが「実際の死傷者ははるかに多い」と同氏はみる。
 ◇求められる支援
 スロバキアのシンクタンク「グローブセック」は、ウクライナが現在の人員で全土から地雷を撤去するには757年を要すると試算した。だが、ロボフ氏は「すべての地雷を除去する必要はない。市民が戦闘終了地域の自宅に帰り、経済活動を再開するのに必要な安全性を確保することが重要だ」と強調する。
 ウクライナはアフガンやソマリアなどに比べて戦闘地域が広く、地雷の埋設密度も高い。弾道ミサイルやクラスター弾など多様な爆発物が使用され、不発弾の処理も複雑を極める。
 ウクライナ政府は、今後10年間に地雷汚染の可能性がある地域の8割で社会・経済活動を再開する目標を掲げる。実現には、人工知能(AI)やドローン、ロボットなどを活用した国際支援が欠かせない。
 「地雷や不発弾は何世代も残る。森や野原で遊ぶ子供たちが気付かずに触れ、命を落とすかもしれない」とイェシチェンコさん。「こんなお願いは恥ずかしいが、私たちはより多くの支援を必要としている」。 

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元ウクライナ軍工兵のウラジスラフ・イェシチェンコさん(左)と妻=10日、キーウ近郊
元ウクライナ軍工兵のウラジスラフ・イェシチェンコさん(左)と妻=10日、キーウ近郊
取材に応じる国連開発計画(UNDP)の地雷除去専門家オレクサンドル・ロボフ氏=19日、キーウ
取材に応じる国連開発計画(UNDP)の地雷除去専門家オレクサンドル・ロボフ氏=19日、キーウ

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