リニア早期着工は不透明=「推進派」勝利でも―残る環境への懸念・静岡知事選 2024年05月11日

 現職の辞職に伴う静岡県知事選では、県が着工を認めていないリニア中央新幹線静岡工区が争点だ。自民党推薦、立憲民主・国民民主両党推薦の無所属2候補はいずれも推進派だが、大井川の水量減少や生態系への影響が懸念される中、抽象的な主張も多い。投開票は26日で、仮に推進派が新知事になっても早期着工の見通しは不透明だ。
 川勝平太前知事は「命の水を守る」と訴え、JR東海の対策は不十分と批判。2021年知事選でもこの姿勢を打ち出し勝利した。リニアの県内ルートに駅はなく、地下トンネルを通るのみ。国はリニア開通で東海道新幹線の輸送能力に余裕が生じ、県内の停車が1.5倍に増えると試算したが、メリットは県民に伝わり切れていない。
 JR東海は3月、静岡工区の遅れから品川―名古屋間の27年開業を断念すると表明。新たな開業時期は見通せず、早くても34年以降にずれ込む公算が大きい。
 こうした中で立候補した前浜松市長の鈴木康友氏(66)=立憲民主、国民民主推薦=は「問題を解決した上で推進する」と主張。新幹線の停車本数を増やすよう交渉する考えを示す。元総務官僚の大村慎一氏(60)=自民推薦=も「スピード感をもって1年以内に結果を出す」とした。
 国の有識者会議は昨年末、環境への影響を最小化するようJR東海に求める報告書をまとめ、今年2月には同社の環境対策を継続的に監視する別の会議を設置。国土交通省幹部は「JR東海と県の対話も促す」と強調する。
 一方県は、着工に向けた検討項目をJR東海に提示。水量については同社が講じる対策に理解を示す一方、水生生物の調査やトンネル工事で発生する土の置き場など30項目は「引き続き対話が必要」としている。
 論戦で2候補は環境重視や大井川流域市町との対話を訴えるが、関係者間の詳細な交渉が続く中、具体性は見えにくい。県幹部は「こちらは検討項目を挙げている。JR東海とは粛々とやっていく」と説明。県の方針は急に変わるものではないと強調する。
 主要候補のうち共産党公認で党県委員長の森大介氏(55)は、環境と水資源の保全を最優先し「リニア中止」を訴える。 

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報道陣に公開されたリニア中央新幹線の改良型試験車=2023年3月2日、山梨県都留市
報道陣に公開されたリニア中央新幹線の改良型試験車=2023年3月2日、山梨県都留市

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