停滞の30年、脱却目指す=「人への投資」経済に活力―新しい資本主義 2022年05月31日

 政府が31日示した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」と「新しい資本主義」実行計画の原案は、軽視されてきた「人への投資」を抜本的に強化し、人材と資金を成長分野に向かわせて、経済のダイナミズムを取り戻すことを狙う。脱炭素化やデジタル化が加速する中、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞から脱却するため、新たな企業の参入を促し、産業の新陳代謝を進める構造転換も不可欠となる。
 岸田文雄政権は、企業は利益をため込むばかりで、賃上げや設備投資を怠り、国際競争力の低下を招いたとの強い危機感を持つ。2020年度末に企業が積み上げた内部留保は484兆円。しかし、経済協力開発機構(OECD)によると、20年の日本の平均賃金は物価水準を考慮した購買力平価実質ベースで3万8515ドル(約490万円)と30年間で4%しか上がらず、韓国に抜かれた。実行計画では「成長の果実」が分配に回らない「目詰まり」の現状を政策によって解消すると強調した。
 付加価値の源泉が機械設備などの「有形資産」から、知的財産やソフトウエアなど「無形資産」へシフトする中、それを生み出す人的資本への投資は急務だ。そのための目玉施策が3年間で4000億円規模の「施策パッケージ」で、約100万人を対象に職業訓練などで支援。働き手の能力を高めITなど成長分野への労働移動を後押しし、賃金上昇につなげる狙いだ。
 さらに巨大IT企業が次々と生まれる米国と比べ、出遅れているスタートアップと呼ばれる新興企業の育成も強化する。年末までに「5カ年計画」を策定し日本全体のイノベーション力を底上げしたい考えだ。
 ただ、政権の「新しい資本主義」は力不足との見方もある。みずほリサーチ&テクノロジーズは、0%台の日本の潜在成長率を欧米並み(1.6%)に引き上げるには、官民の人的資本投資を現状の年間1兆6000億円から3兆9000億円へと拡大することが必要と試算。このうち、公的投資による追加額は1兆3000億円が必要で「『施策パッケージ』では全然足りない」(服部直樹上席主任エコノミスト)と指摘している。 

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岸田文雄首相=5月31日、首相官邸
岸田文雄首相=5月31日、首相官邸

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