DX、経済再興に期待=自動化で仕事変革―課題は人材育成 2020年12月31日

 新型コロナウイルス感染拡大を背景に、2021年は官民でデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が高まりそうだ。政府は9月に司令塔となる「デジタル庁」を設置し、民間でも仕事のデジタル化が加速する。政府・与党内には、コロナ禍で落ち込む日本経済を「DXで再興する」(自民党有力議員)と期待する声がある。
 一方、社会のデジタル化で従来の仕事が自動化される可能性があり、専門人材の育成や新しい働き方に対応した社会人の学び直しが課題だ。
 コロナ禍で、官民がはんこや紙、ファクスを使った作業に依存していることがあらわになった。米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーは「日本では、全職業の作業時間のうち56%は反復型の定型業務だ」と分析し、このうち約7割は人工知能(AI)などで自動化できる可能性が高いとみる。
 自動化の「余地大」とされるのは、給与計算や会計処理、住宅ローン融資など。これらの仕事が減っても、分析や新事業創出といった「人間にしかできない仕事」は増えるとみられ、先進7カ国(G7)で最下位の日本の労働生産性は上向く可能性がある。内閣府幹部は「人口減の中で成長を維持するには、DXが不可欠」と熱弁を振るう。
 しかし、現実には自動化への不安や戸惑いは根強い。自動車や電話が20世紀に当たり前になったように、AIや先端IT機器が今後「全ての仕事」に関わるようになれば、専門家ではない普通の会社員も使いこなす必要がある。中小企業庁幹部は「中小企業は人材も教育制度も十分ではない」と漏らす。
 時事通信が20年末、全地方銀行に実施した調査では45%がDX担当役員を設置済みと答えた一方、「設置予定なし」も37%に上った。関西の地銀関係者は「雇用維持の観点でも、急激なDXは簡単ではない」と悩ましげな表情だ。
 菅政権は21年、デジタル庁設置と並行し、官民のDXを支えるため、AI人材の育成や、社会人が学び直す「リカレント教育」の拡充に向かう。ただ、「民間側もどのような人材が必要なのか十分に整理できていない」(経済産業省幹部)とされ、短期の成果は見通せない。 

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