貿易戦争に新型コロナ、人種差別=中西部激戦2州「くら替え」の背景―米大統領選 2020年11月05日

 【フィラデルフィア、シカゴ時事】米大統領選で民主党のバイデン前副大統領が奪還した激戦州の中西部ミシガンとウィスコンシン。2016年の大統領選では、共和党のトランプ大統領がいずれも僅差で制し、当選の原動力となった。それがなぜひっくり返ったのか。トランプ政権による貿易戦争や新型コロナウイルスへの対応、人種差別問題などが背景に浮かび上がる。
 伝統的に民主党が強い両州はラストベルト(さび付いた工業地帯)に位置する。ミシガン州は自動車産業の集積地だが、トランプ政権が導入した外国製鉄鋼や中国製品に対する追加関税のあおりで、製造業の負担は増加。トランプ氏の経済手腕に産業復活の望みを託した白人労働者の間には「期待を裏切られた」と失望感が広がった。
 コロナ対応のまずさも「トランプ離れ」を招いた。同州デトロイト郊外で取材に応じた50代の自営業カイス・アブナさんは共和党支持者だが、コロナ禍を機に「反トランプ」に転じた。「世界で最も多い死者を出しているのに、彼は『ウイルスがなくなる』としか言わない」。アブナさんは「良好だった経済は今低迷しており、3年前に何をやったかより今の方が重要だ」とも訴えた。
 酪農が盛んなウィスコンシン州では、コロナ禍に伴うレストランの営業停止や学校の休校を受け、乳製品需要が激減。酪農業界では4月、生乳の大量廃棄を余儀なくされ、初めての経験に「心が折れそうだ」と嘆く声が聞かれた。
 同州ケノーシャでは8月、黒人男性ジェーコブ・ブレークさんが警官に背中を撃たれる事件があった。これを受け、市内では抗議デモ隊の一部が暴徒化し、放火や略奪が続発。市街地には燃えた大量の自動車がいまだに放置され、暴動の爪痕を深く残している。
 トランプ氏は選挙戦で、「法と秩序」の回復を繰り返し訴えたが、有権者らは「人種差別や社会の分断をあおり、治安悪化を助長したのはトランプ氏本人」と受け止めた。ケノーシャの投票所でバイデン氏に一票を投じたヒスパニック系の大学生ミリアム・バラハスさん(21)は「バイデン氏は人種差別の解消に積極的で、移民にも寛容だ」と期待を示した。 

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米中西部ウィスコンシン州のアルミニウム製造施設を訪れた大統領選民主党候補のバイデン前副大統領=9月21日(AFP時事)
米中西部ウィスコンシン州のアルミニウム製造施設を訪れた大統領選民主党候補のバイデン前副大統領=9月21日(AFP時事)
8月の暴動の際に放火された多数の自動車=今月2日、米ウィスコンシン州ケノーシャ
8月の暴動の際に放火された多数の自動車=今月2日、米ウィスコンシン州ケノーシャ

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