ANA、生き残りへ戦略転換=「再浮揚」なお視界不良 2020年10月27日

 ANAホールディングス(HD)が27日発表した事業構造改革は、これまでの拡大戦略を大きく転換する内容となった。新型コロナウイルス流行が直撃して過去最大の赤字が不可避となる中、グループの生き残りを懸けた苦渋の選択とも言える。ただ、感染収束はいまだ見通せず、海外では感染が再拡大する。反転への道筋はなお視界不良で、長期化すれば不採算路線の見直しも課題となりそうだ。
 「事業モデルを劇的に変革する」。ANAHDの片野坂真哉社長は27日の記者会見で、不退転の決意を表明した。
 ANAHDは国際線の利用増を背景に、2016年3月期以降3年連続で過去最高益を更新。東京五輪・パラリンピックを見据え、未就航路線の開設や機体数の増加など拡大戦略を講じてきた。
 だが、コロナ禍で経営環境は一変した。国際線を中心に旅客需要は消滅。固定費が財務基盤を圧迫し、既存のビジネスモデルの維持すらできない状況に陥った。片野坂氏は「航空事業を一時的に小さくすることでコロナのトンネルを抜ける」と述べ、当面は生き残りに向け身をかがめる考えを表明した。
 構造改革は、人件費のカットや機体数の削減など固定費の圧縮が柱。さらに格安航空会社(LCC)の新ブランド立ち上げ、顧客データを活用した非航空事業の強化を打ち出した。感染の再拡大で航空需要が回復しなくても、収益を確保できるビジネスモデルに変革する。
 併せて、銀行団から劣後ローンで4000億円を新たに調達する。21年3月期末に向け資金流出が続く事態を想定しつつも、片野坂氏は「手持ち資金の心配はない」と語り、公的資金注入の必要性を否定した。
 しかし、欧米を中心にコロナ感染が再拡大しており、「国内線7割、国際線5割」との見通し通り需要が回復するかは不透明。通常の借り入れより金利の高い劣後ローンは、企業の経営を圧迫していく。銀行団は「相当負荷を掛けて試算した上で資金を入れている」(幹部)と追加支援の必要性を否定するが、全てはコロナの収束次第となる。
 今回の改革では不採算路線の撤退には踏み込まず、当面はコロナ収束の時期を見極めながら減便で対応する方針を示した。それでも、旅客需要の回復が想定以上に遅れれば、自助努力だけでは立ちゆかなくなる恐れがある。今後、路線の見直しや公的支援が選択肢となる事態もあり得そうだ。 

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