激戦ラストベルト、薄れる熱狂=コロナ対策に失望広がる―米大統領選 2020年10月27日

 11月3日の米大統領選まで1週間を切った。激戦州の一つに数えられるミシガン州は、トランプ大統領が4年前、製造業の復活を願う労働者から熱狂的な支持を集めた中西部「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)に位置する。米国第一を貫くトランプ氏の経済手腕に望みをつなぐ声が根強い一方、出口の見えない貿易戦争や新型コロナウイルス対応のつまずきに失望も広がる。
 ◇関税・コロナ「二重苦」
 五大湖を望むミシガン州は自動車産業の集積地として知られる。最大都市デトロイトの市街地を抜けると突如、巨大な車工場の廃虚が現れた。
 「淡い望みは裏切られた」。市内の職業安定所で10月半ば、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の下請け会社を解雇されたゲリー・ハリソンさん(47)が悲痛な胸の内を明かした。
 2016年の大統領選でトランプ氏に賭けた白人労働者は、ハリソンさんを含め、ミシガン州で共和党候補が28年ぶりに勝利した番狂わせの立役者となった。だが今回、ハリソンさんは民主党候補バイデン前副大統領に乗り換えると決めた。バイデン氏には、09年に経営破綻したGMを救済した実績もある。
 リーマン・ショック、GMの一時国有化、デトロイト市の財政破綻―。「次の試練は貿易戦争とコロナだ」とハリソンさん。トランプ氏が導入した外国製鉄鋼や中国製品に対する追加関税で、かえって製造業の負担は増した側面もある。米商工会議所によると、ミシガン州は州別で全米第5位となる20億ドル(約2100億円)の打撃を被った。GMは昨年、米国内の3工場を閉鎖した。
 ハリソンさんは、元同僚の黒人男性をコロナで亡くした。同じく感染したトランプ大統領は高度な治療を受けたが、「自分のような高卒者や黒人は真っ先に犠牲になる」。9月の高卒者の失業率は9.0%、黒人は12.1%。いずれも全米平均(7.9%)より悪い。
 ◇「反中国」に期待
 ラストベルトの勝敗は、全有権者の4割を占める白人の非大卒層がカギを握る。全米での支持率平均はバイデン氏が優位に立つが、白人非大卒層に限ると形勢が逆転する。米公共ラジオ(NPR)が今月15日に示した調査結果では、この層のトランプ氏支持率は、低下したとはいえ54%を保つ。対するバイデン氏は43%にとどまる。
 「同僚にもトランプ支持者は多いよ」。ミシガン州郊外で行われた共和党集会に参加したマイク・ベッカーさん(55)は期日前投票を済ませた。同州で創業した白物家電大手ワールプールの孫請け会社で働く白人労働者だ。現政権下の「減税、株高、住宅ローン金利低下」を手放しで喜ぶ。
 米国の国内総生産(GDP)に占める製造業の比率は10.5%と、過去最低水準に低下する中、ワールプールは「トランプ関税」の恩恵を受けた数少ない企業だ。外国製大型洗濯機の輸入が減って競争力が高まった。「ラストベルトの復活は遠い。でも、中国や移民に仕事を奪われるよりましだ」とベッカーさんは息巻く。
 ◇「隠れトランプ」民主党警戒
 バイデン陣営はラストベルトで労働者票のてこ入れを図っている。だが、民主党の元ミシガン州知事候補、アブドゥル・エル・セイド氏は「労働組合の結束の弱さが悩みの種だ」とぼやく。
 保守的な政治信条を持つ一方、格差社会で不満を抱える白人非大卒層は、世論調査に回答しない傾向がある。前回の選挙では、民主党に近い全米自動車労組(UAW)で組織票が割れ、約3分の1がトランプ氏支持に転じた。民主党候補のクリントン氏が優勢と分析した各社の予測が外れた背景に、隠れたトランプ支持者の存在が挙げられている。
 ラストベルトにはこうした「隠れトランプ」が多いとされており、セイド氏は投票日直前まで戸別訪問を続けて翻意を促すつもりだ。 

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米大統領選で反トランプ集会に参加するミシガン州のゲリー・ハリソンさん(本人提供)
米大統領選で反トランプ集会に参加するミシガン州のゲリー・ハリソンさん(本人提供)

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