共和牙城アリゾナで大接戦=ヒスパニック、無党派増で変化―米大統領選 2020年10月21日

 11月3日投票の米大統領選は、注目州の一つ、与党共和党の牙城・西部アリゾナ州で大接戦となっている。世論調査で民主党のバイデン前副大統領(77)がトランプ大統領(74)を3.1ポイント差でリード。州の人口構成が多様化し、民主党支持者が多いとされるヒスパニックや無党派層が増えていることが背景にある。
 ◇戦う相手は大統領
 「皆目を覚まして、大統領が私たちに何もしてくれなかったことに気づくべきだ」
 2010年に米国籍を取得し、空港で料理人として働くヒスパニックのルシア・サリナスさん(41)は新型コロナウイルスの感染拡大で3月に一時解雇された。失業保険も3カ月近く受給できず、一時は空き缶などを集めて糊口(ここう)をしのいだ。
 現在、サリナスさんは生活に困窮する中、バイデン氏への投票を呼び掛ける戸別訪問に取り組んでいる。対コロナに無策な「大統領と戦わなければならない」と思ったからだという。「(コロナ禍で)私のような苦境に陥った人は他にもたくさんいる」。ヒスパニックが州人口に占める割合は約32%にも上る。
 ◇人生初の投票はバイデン氏
 伝統的に共和党が強いアリゾナ州では、1952年以降の大統領選で民主党候補が勝ったのは96年だけ。しかし近年、ヒスパニックを含む人口動態の変化が共和党の牙城を揺るがしている。
 州人口は2000年の約513万人から19年には約728万人に増加。多様な政治的背景を持つ州外からの移住者も流入し、有権者の3分の1が無党派層になっている。18年の上院選では、民主党が議席を共和党から奪還した。
 10月中旬、州内の期日前投票所や郵便投票の投函(とうかん)ポストには、ひっきりなしに有権者が訪れていた。最大都市フェニックスを擁するマリコパ郡で郵便投票した白人のメアリーさん(25)は「トランプ氏の言動にうんざり」して、人生初の投票をバイデン氏に入れた。別の投票所では「前回は投票に行かなかった」と話すバイデン氏支持者の男性(37)もいた。
 ◇炎天下で集会
 「彼は政治家ではなく、戦いをいとわず、慣例に従わないから勝つ」。トランプ氏の長男トランプ・ジュニア氏が14日、州南部ツーソンでの集会で父親の強みをアピールすると支持者からは歓声が湧いた。
 10月でも35度を超える炎天下。約200人の集会に参加した人たちは、トランプ氏はコロナ対応で「中国からの入国をいち早く停止した」などと口々に評価していた。フィリピン出身のティナ・コンサーさん(59)は、トランプ氏の感染は「(感染しても)大丈夫だということを証明した」と断言する。
 一方、バイデン氏を支持する共和党員も出ている。モルモン教徒で元判事ダニエル・バーカーさん(67)は「(トランプ氏は)結束や協力関係構築に向けた真の努力を行わない。それがパターン化している」と語った。バーカーさんは40年以上、大統領選で共和党候補に投票してきたが、前回選挙では与野党どちらの候補も支持しなかった。
 しかし、今回は「2人のいずれかが大統領になるなら、それはバイデンだ」。バーカーさんは政治団体を立ち上げ、「バイデン氏を支持するアリゾナ共和党員」と書かれた看板を庭先に置いてもらう活動を行っている。(フェニックス=米南部アリゾナ州=時事)。 

その他の写真

米アリゾナ州フェニックスで戸別訪問を行うルシア・サリナスさん(右)=13日
米アリゾナ州フェニックスで戸別訪問を行うルシア・サリナスさん(右)=13日
米西部アリゾナ州での集会で演説するトランプ大統領の長男トランプ・ジュニア氏=14日
米西部アリゾナ州での集会で演説するトランプ大統領の長男トランプ・ジュニア氏=14日
米大統領選で民主党のバイデン候補を支持するアリゾナ共和党員のプラカード(ダニエル・バーカーさん提供・時事)
米大統領選で民主党のバイデン候補を支持するアリゾナ共和党員のプラカード(ダニエル・バーカーさん提供・時事)

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