実現可能?食品輸出5兆円=菅首相肝煎りも不安の声 2020年09月17日

 菅義偉首相肝煎りの政策の一つが、農林水産物・食品の輸出拡大だ。少子高齢化で国内市場の縮小が避けられない中、海外に活路を見いだすのが狙い。政府目標は2030年に5兆円。19年実績の5倍超に当たる野心的な数字に、本当に実現できるのか自民党内でも不安の声が漏れる。
 政府は今年3月、農林水産物・食品の生産額50兆円のうち10%は海外市場に回すとの考えに基づき目標を設定した。野上浩太郎農林水産相は17日の就任記者会見で「海外需要に応えるため商談などの支援を行う」と述べ、達成に意欲を示した。
 日本産品の主な輸出先は香港、米国などで、和牛や日本酒、ホタテが人気だ。ただ、19年に1兆円を目指していたが、結果は9121億円にとどまった。今年1~6月の実績は新型コロナウイルス流行の影響で前年同期比8.2%減の4120億円、年間で19年を下回る見通しだ。
 自民党内では疑問の声が相次ぐ。ある農林族議員は「2兆~3兆円でも難しいのに5兆円は無理だ」とこぼす。別の議員は「5兆円(の金額)ありきで政策論が進んでいる」と批判する。
 推進役を担う農水省では、輸出担当部署を国際担当と統合して局に格上げし、予算や人員を集中投入する案が浮上している。コメや牛肉をそのまま輸出せず、「日本酒や食品に加工して付加価値を高めることで輸出金額を大幅に引き上げるしかない」(政府関係者)との指摘もある。
 東京電力福島第1原発事故に伴い、韓国など19カ国・地域がいまだに日本産食品の輸入を規制。コロナ禍もあり海外市場の開拓は容易ではない。農水省は19年にコメ輸出10万トンの目標を掲げたが、未達のまま。農政の信頼性が問われている。 

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