「法と秩序」の訴え、街を二分=差別、暴動で揺れる激戦区―米大統領選 2020年09月06日

 米中西部ウィスコンシン州の人口約10万人の都市ケノーシャは、白人警官による黒人男性銃撃と、それに続く人種差別抗議デモの暴動で全米の注目を集めた。1日に現地を視察したトランプ大統領は、11月の大統領選に向け、「法と秩序」の回復をアピール。住民からは「対立を深める」との懸念の声の一方、トランプ氏の訴えへの共感も聞こえてきた。
 ケノーシャはかつて自動車産業で栄えたが、現在は州境を挟んだイリノイ州シカゴの郊外都市の機能を持つ。民主党の地盤だったが、2016年大統領選ではトランプ氏の票が民主党のクリントン元国務長官を上回り、激戦州ウィスコンシンでの勝利に貢献した。
 黒人男性ジェーコブ・ブレークさんが8月23日に白人警官に背中を撃たれ重傷を負った事件の現場から1キロほど離れた住宅街。玄関先に腰掛けていた白人のジムさん(58)は、商店数十軒が焼き払われた抗議デモへの怒りをあらわにした。「彼らは街の外からやって来て政治的見方を押し付けている。なぜ私たちの街を壊すのか」
 ジムさんは40年来ケノーシャに住み、民主党員の家庭で育ったが、前回はトランプ氏を支持した。「共和党は金持ちの党、民主党は労働者の党だったが今では正反対だ」と語り、自由と雇用、安全を守ってくれるとトランプ氏に期待している。家の奥から顔を出してきた母親(78)も「トランプは票が欲しくてここに来たわけでなく、手を差し伸べている」と話し、いち早い現地入りに好意的だ。
 トランプ氏の現地訪問には、州知事らが「人種問題を克服する妨げになる」と反対し、主要メディアも否定的な報道が目立った。だが、話を聞いた限りでは、治安への不安と「地域に寄り添う大統領」という異なる尺度での評価も一定程度あった。
 工学デザイナーで白人のブルースさん(32)はトランプ氏と、民主党候補のバイデン前副大統領の「どちらも難点がある」として大統領選の投票先を悩んでいる。ただ暴力的なデモに強い懸念を覚え、トランプ氏の視察を「良いことだ」と歓迎した。
 前回大統領選でクリントン氏は一度もウィスコンシン州入りせず、同州を落とした。トランプ、バイデン両氏とも住民への「近さ」をアピールするのに躍起だ。
 バイデン氏はトランプ氏から2日遅れてケノーシャ入りし、ブレークさんの家族と会った。デモに乗じた暴力を「支持しない」と明確にしたが、力点を置いたのは人種問題だ。
 ケノーシャの住宅街で話を聞いた黒人男性(71)は「われわれの問題に耳を傾けてくれている」とバイデン氏を高評価。白人の写真家ケビンさん(49)は「人種差別主義者」と批判するトランプ氏を落選させることが最優先と強調し、バイデン氏について「大ファンではないが、クリントン氏よりいい」と語った。(ケノーシャ=米ウィスコンシン州=時事)。 

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にらみ合うトランプ大統領の支持者(左)と人種差別抗議デモの参加者=1日、米ウィスコンシン州ケノーシャ
にらみ合うトランプ大統領の支持者(左)と人種差別抗議デモの参加者=1日、米ウィスコンシン州ケノーシャ

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