消えた「インバウンド」=構造不況に拍車―観光・小売り、緊急事態3カ月 2020年07月17日

 前年同月比99.9%減の1700人―。日本政府観光局が発表した5月の訪日外国人数は、1964年の統計開始以来の最少を記録、新型コロナウイルスが観光業にもたらす打撃の深刻さを知らしめた。コロナ禍の影響は訪日外国人旅行者(インバウンド)の消失だけではない。「巣ごもり」で落ち込む個人消費は、小売業界の構図も変えつつある。
 ◇出はなくじく「再拡大」
 6月末、「しろくまツアー」で知られる大阪の旅行会社が、コロナ関連で最大となる278億円の負債を抱えて経営破綻した。支援に乗り出したのは星野リゾート(長野県軽井沢町)。星野佳路代表は「これまでも再生案件を手掛けながら事業を拡張してきた」と、苦境下での事業拡大に自信を見せる。
 狙うのは、日本人が海外旅行で使っていた年間2~3兆円の取り込みだ。ただ、感染者が再拡大する中、国内旅行も回復は見通せない。期待が大きかった政府の支援策「Go To トラベル」は東京発着を除外して始まることが決まった。
 外食チェーンでは不採算店の閉鎖が続出、身を縮めてコロナ禍を乗り切る構えだ。しかし感染対策による集客力の低下は否めず、外出自粛が再び強化されれば資金繰りは一段と深刻化する。体力を消耗した企業の統廃合が進む可能性もある。
 「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスは、収益が堅調な事業を売却して生き残りを図る。だが同業他社からは「ステーキ業態は参入障壁が低く競争が厳しい」との声が上がる。
 ◇老舗にも再編の波
 「巣ごもり」需要を取り込んだスーパーとは対照的に、百貨店は多くの店舗が臨時休業に追い込まれた。売上高の激減で三越伊勢丹ホールディングスなど大手3社ですら、2020年3月期や3~5月期の決算で赤字転落を余儀なくされた。
 コロナ以前から、インターネット通販や他業態による浸食という構造不況に陥っていた百貨店。今後は「少子高齢化が直撃する地方や首都圏の老舗も巻き込んだ再編機運が高まる」(大手幹部)との見方が強まる。
 百貨店の苦境は、販路を依存するアパレル業界に波及した。老舗レナウンは5月、資金繰りに行き詰まって経営破綻。スポンサー企業はなお決まらない。3~5月期に赤字へ沈んだオンワードホールディングスは、一度撤退した衣料通販サイト「ゾゾタウン」に再出店し、立て直しを図る。 

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