冷え込む外需、雇用不安拡大=コロナに米との対立―中国 2020年05月23日

 いち早く新型コロナウイルスの感染拡大を抑え、経済正常化に向かう中国。だが、予想以上の外需の冷え込みが企業経営を圧迫し、雇用不安が広がりつつある。V字回復で体制の優位性をアピールする共産党のシナリオは、見直しを迫られている。
 ◇海外受注ゼロ
 世界最大級の日用品卸売市場がある浙江省義烏市は、1年前の訪問時と比べ、様変わりしていた。荷物を満載したトラックが盛んに行き交った通りはガラガラ。通関待ちですし詰め状態だったコンテナ車は姿を消した。
 「海外からの受注はゼロ。開店休業状態だ。20年働いたが、ここまでひどい状況は初めて。このままなら別の仕事を探す」。市内の物流会社に勤める男性(39)はため息をついた。
 市内では、操業を停止していた工場が、3月以降に再開した。ただ、外需の落ち込みは想定以上で、再び休業する業者が増えている。男性は「インドや中東など、輸出先の港湾で準備が整わないことが最大の問題。航空便も途絶え、とても困っている」と嘆いた。
 外国人バイヤーでごったがえしていた卸売市場は、閑古鳥が鳴いていた。国旗を販売していた30代の女性店主は「2月末の市場再開と同時に営業を始めたが、海外からの問い合わせは一切ない。今年は米国の選挙があり、本来なら一番もうかる年だった」と悔しがった。店舗契約が切れる年末まで我慢し、好転しなければ廃業するという。
 ◇「最低の生活」
 外需の冷え込みは雇用不安を招いている。中国有数の民営企業集積地、浙江省温州市の工場地帯では、職探しをする若者の姿が目についた。江西省出身の20代男性は「まさに職探し中。最低の生活を送っている」と、腹立たしげに語った。
 履物工場で共働きする河南省出身の夫婦は、昨年は1万6000元(約24万円)だった月給が、7000元に下がった。故郷に帰る出稼ぎ労働者も増えているという。夫は「農地は売ってしまい、帰る場所がない。故郷の両親と子どもを養わなければならないが、今の給料では生活していけない。貯金を取り崩している」と、表情を曇らせた。
 温州で金属加工会社を営む社長は、市内の工場で輸出用の自動車部品などを生産していたが、物流寸断で海外業務の停止に追い込まれ、4割の従業員を削減した。政府に操業継続を義務付けられ、やむなく国内向けの業務を続けている。
 周辺工場は新型コロナで深刻な打撃を受け、マスクなど防疫関連製品の生産でしのいでいるが、この社長は「これ以上マスク需要は伸びない。状況が長引けば、地元地域の工場の半分は廃業を迫られるだろう」と、険しい表情で話した。
 ◇対中圧力
 中国経済の苦境に追い打ちをかけるのが米中対立の再燃だ。米中貿易協議「第1段階」合意の直後に中国から新型コロナの流行が世界に拡大。最も被害を受けた米国は再び中国非難を強め、貿易だけでなく技術封鎖や資本取引制限といった形で、圧力を加えつつある。
 中国招商銀行が4月中旬、42万社を対象に実施した調査では、約2割が6月には資金が尽き、倒産危機に直面すると回答。企業の苦境が浮き彫りになった。ある地方政府関係者は「中国の発展に西側諸国との良好な関係は不可欠。トウ小平時代の精神に立ち返るべきだ」と訴えた。 (浙江省義烏、温州=時事)

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ガラガラな浙江省義烏の税関。コロナ流行前は通関待ちのトラックであふれかえっていた=13日、中国浙江省義烏
ガラガラな浙江省義烏の税関。コロナ流行前は通関待ちのトラックであふれかえっていた=13日、中国浙江省義烏
人影が消えた浙江省義烏の日用品卸売市場=13日、中国浙江省義烏
人影が消えた浙江省義烏の日用品卸売市場=13日、中国浙江省義烏

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