北朝鮮、2国家路線で体制維持=韓国と「国境断絶」へ―吸収統一恐れる正恩氏 2024年10月09日 18時33分
【ソウル時事】北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は9日、韓国とつながる道路や鉄道を完全に遮断すると発表した。韓国と陸上で往来する手段を物理的に断絶し、「国境」によって南北を切り離す方針を明確にした形だ。金正恩朝鮮労働党総書記は南北朝鮮を「敵対的な2国家」と位置付けることで現状を固定し、独裁体制の維持を狙っているという見方が出ている。
朝鮮中央通信によると、総参謀部は「第1の敵対国、不変の主敵である韓国との国境を永久に遮断、封鎖する」と主張。南北の境界を「堅固な防御構造物で要塞(ようさい)化する」と強調した。
朝鮮戦争(1950~53年)の休戦状態が続き、統一を目指してきた韓国と北朝鮮は互いに「国境」の存在を否定してきた。しかし、正恩氏は2023年末の演説で「(南北は)もはや同族ではなく、敵対的な国家、交戦国の関係になった」として統一の放棄を表明。今年1月には「国境」の設定を事実上表明し、「『統一』『和解』『同族』という概念を完全に除去すべきだ」と語った。
これを受け、北朝鮮軍は作業を開始。韓国軍によると、4月ごろから多数の兵士が南北軍事境界線付近に地雷を埋め、対戦車防壁とみられる構造物を築くなど「国境線」を引く動きを見せてきた。
韓国の梁茂進・北韓大学院大総長は「韓国との経済格差が広がり、北朝鮮主導の統一が難しいという認識がある」と指摘。「韓国による吸収統一が排除されないことへの危機感から出てきた生存戦略だ」と分析した。韓国銀行(中央銀行)の推計では韓国の1人当たり国民総所得(GNI)は北朝鮮の約30倍まで広がっている。
韓国統一省によると、脱北者の8割が韓国入りする前に韓国ドラマをはじめとする北朝鮮域外の映像を見たことがあると回答。韓国のテレビ番組を見て「感動した」と証言した脱北者もおり、韓国文化の流入拡大は独裁体制を揺るがしかねない。北朝鮮は取り締まりを強化し、住民に韓国への敵対心をかき立て「内部の結束を図っている」(韓国国家安保戦略研究院の金鍾※〔※サンズイに元〕研究委員)とされる。
韓国の尹錫悦大統領は8月、北朝鮮の住民らに自由な韓国の姿を知らせ、統一への希望を抱かせる戦略「統一ドクトリン」を発表した。北朝鮮は、尹大統領が「吸収統一を目指している」と見なし、警戒を強めているもようだ。