北極公海に魚の管理ルール策定へ=海氷減少で高級魚の漁場発生も―第2部「蒼い北極」(4)・〔66°33′N=北極が教えるみらい〕 2024年10月03日 07時56分
地球温暖化による北極海の海氷減少により、これまで氷に閉ざされていた海域に変化が表れつつある。海氷が溶けて魚が生息し得る海域が拡大しているとみられ、北極公海の沿岸国や漁業関係国らが加盟する協定で、資源調査や漁業管理策の策定に向けた準備が進められている。
無規制な漁業活動を防止し、新たな枠組みづくりを目指す「中央北極海無規制公海漁業防止協定」に、日本は2018年10月に署名。21年6月に発効した。北極公海ではイヌイットが生活に必要な魚を取っていたものの、商業的な漁業は行われておらず、漁業規制はなかった。
こうした中、「18年までの40年間に海氷面積は4割ほど小さくなった」(日本の政府関係者)といった報告があるほか、「海氷は確実に減少傾向にあり、隣接海域から魚が移ってくる可能性がある」(水産庁)との指摘も。
そこで同協定では、北極公海での漁場の発生も視野に、先手を打つ形で「保存管理措置に基づく場合のみ商業的・試験的漁獲を許可する」とし、漁業を原則として禁止している。
協定加盟国などの間では「近い将来、漁業が行われる状況ではない」との見方が大勢だが、「海洋環境が変われば、魚の生息域が変わるのは世界各地で見られる現象」と日本の漁業団体も指摘する。
北極公海における魚資源の科学的データは十分ではないが、温暖化が進行して海氷が減少し続ければ、「北極公海に隣接する海域から、北極ダラや大西洋ダラ、カラスガレイ、アカウオといった比較的高級魚が移動してくる可能性がある」と水産庁はみる。
さらに、協定関係国の知見などによれば、カラフトシシャモやコガネガレイなども、北極公海への生息が起こり得るとみる向きもあり、各国の科学者らが情報収集やデータの分析などを行っている。
同協定は、発効後3年で試験操業に関する枠組みを作成することになっており、魚の資源調査と並行して試験的な漁獲に関する協議が進められる。新たな漁場発生を想定しつつ、魚の持続的利用に向けたルール作りに期待が寄せられている。
▽ニュースワード「中央北極海無規制公海漁業防止協定」
中央北極海無規制公海漁業防止協定 海洋資源の保存や利用に関するルールがない北極公海で、漁業規制に関する国際的な枠組みづくりを目的に、2021年6月に発効。日本や米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマークなど、計10カ国・機関が加盟している。対象海域は約280万平方キロメートルで、日本の国土面積の13.5倍と広い。海氷の減少により、魚の出現も想定されるため、商業的漁業を禁止しつつ、海洋資源の科学的調査やモニタリングのほか、保存管理措置に基づいた試験操業への準備を行っている。