「安倍路線」、岸田首相の間合いに変化=防衛財源で溝、LGBT押し切る 2023年07月07日 20時16分

安倍晋三元首相の死去から1年がたち、岸田文雄首相の政権運営に「脱安倍」とも言える変化の兆しが見える。「安倍路線」を尊重する姿勢は維持しつつ、LGBTなど性的少数者への理解増進法を巡っては自身の考えを実行に移した。今後も安倍派をはじめとする自民党保守系との間合いを計りながら慎重に政策を進めることになりそうだ。
「この1年、安倍元首相の遺志に報いるためにも、先送りできない課題に一つ一つ正面から取り組んできた。これからも(従来の姿勢を)大事にしながら職責を果たす」。首相は7日、首相官邸で記者団にこう強調した。
首相は昨年12月、安倍氏の主張に沿う形で防衛費の大幅増額や「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有を決断。今年2月に内定した日銀総裁人事では、安倍派に「アベノミクス」維持を求める声が強まる中、急激な金融政策の転換に慎重とみられる植田和男氏を選んだ。憲法改正に取り組む意向も繰り返し示す。
一方、防衛費増額の財源に関する昨年末の党内議論では対応に苦慮した。増税による財源確保を表明した首相に対し、保守派は猛反発。安倍氏の「威光」を盾に堂々と異論を展開する光景に、政府関係者は「遺志をかたっている」と不満をあらわにした。結局、首相が押される格好で結論の先送りとなった。
ただ、首相は6月上旬、LGBT法の通常国会会期中の成立に向け、調整の加速を指示。保守派に一定の譲歩をしつつ、会期末直前に成立させた。
日韓関係についても、韓国軍艦艇による海上自衛隊機への火器管制レーダー照射問題など懸案が残る中、改善にかじを切った。結果的に大きな抵抗がなかったことに、ある政府関係者は「『保守の反発』というのは幻影かもしれない」と語る。
首相は保守派を抑える重しとして安倍氏を頼り、生前はたびたび事務所を訪れて政権運営について意見を聴いた。安倍氏死去後の昨年8月の党役員人事ではその役割を期待し、安倍氏側近の萩生田光一氏を政調会長に据えた。
ただ、膝詰めで会う機会が多い麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長に比べ、萩生田氏と個別に時間を割いて向き合う場面は少ない。安倍派の後継会長選びが長引く中、岸田派からは萩生田氏について「安倍派を抑えられていない」(幹部)との指摘も出ている。
内閣支持率はこのところ、マイナンバーカードを巡るトラブル続出の影響で低下。さらに、自民党関係者によると「コアの保守層の気持ちが離れ気味」という。保守派への配慮と独自色。「二兎(にと)」を追う政権運営が続く。