「共同声明」前夜、高まる圧力=安倍政権発足、物価目標2%へ―日銀議事録・12年下期 2023年01月31日 17時19分

日銀が31日公表した2012年下半期(7~12月)の金融政策決定会合議事録では、日銀が自らの独立性に不安を募らせながら、物価目標導入への政治的圧力に苦慮する様子が浮き彫りになった。12月に第2次安倍晋三政権の発足が確実になると、安倍氏が掲げる「物価上昇率目標2%」に向けた検討を開始。現在の大規模緩和の根拠とされる「共同声明」まで1カ月、外堀は埋まっていた。
9月に当時野党だった自民党総裁に復帰した安倍氏は、デフレ脱却に向けた日銀の姿勢が不十分だとの主張を展開。日銀法改正にまで言及しながら、物価目標の導入などを強く求めた。
こういった動きに対し、10月5日の会合で木内登英審議委員(肩書は当時、以下同)は「デフレ克服に向けた強い意思を再度明確に示すことを検討しなければならない」と強調。11月20日の会合でも、「丁寧な情報発信を愚直なまでに繰り返すことが必要」(佐藤健裕審議委員)との声が出た。
一方、日銀は民主党政権からも圧力を受けていた。10月30日の会合では、デフレ脱却に向けた政府との共同文書を決定。当時としては異例の措置で、山口広秀副総裁は「日銀の独立性に関し疑義が持たれることはあってはならない」との懸念を示した。
日銀が一段と追い詰められたのは、12月の衆院選で自民党が勝利し、安倍政権発足が現実的になってから。総選挙直後の20日の会合では早速、この年の2月に公表した「中長期的な物価安定のめど」の見直しを議論。政策委員からは「『めど』を『目標』あるいは『ターゲット』という言葉に変更してもよいのではないか」(白井さゆり審議委員)といった意見が出され、2%の物価目標導入の検討を開始した。
もっとも、白川方明総裁は2%という目標を念頭に「もし達成されないと、中央銀行に対する信認が低下してくる」と指摘。「政府も民間も日銀も、気合だけの問題ではなく、どのように実現していくかという具体的な政策論の話だ」とクギを刺した。
当時副総裁だった政策研究大学院大学の西村清彦特別教授は、この間の議論について「日銀の独立性を踏みにじる動きが強くなった。どんどん(政治サイドから)押し込められている感じがした」と振り返る。
政府との連携強化を余儀なくされた日銀は翌年1月、2%の物価目標を盛り込んだ「共同声明」を発表。さらに3月に就任した黒田東彦新総裁の下で、異次元の金融緩和に突入していく。